ぼくのセカイ征服
僕の隣にいるこの少女、全くといっていいほど息が切れていない。それ以前に、僕の走るスピードにずっとついてこられている。これは一体全体どういう事なのか?僕の足が遅くも速くもない、というのはさっきも言ったが、僕はあくまで男だ。運動能力に関して言えば、男の普通は、女の上級に相当するだろう。この少女は陸上部のエースか何かだろうか?
…いや、それなら、いくら学校の事情に疎い僕でも、顔くらいは知っているはずだ。そう、少なくとも一度くらいは、見た事があるはずなのだ。
しかし。
僕はこの少女を知らない。
一切…知らないのだ。

まぁ、この際そんな事はどうだっていい。それよりも重要なのは、この後どうするか、だ。勢いで助けてしまったが、助けた後でどのように部活に勧誘するか、といったような事は全然考えていなかった。それは、逃げるのに夢中だったから…というのもあるが、それ以上に、僕の根が清純だったから、という事にしておこう。これで好感度アップだ!

…誰からの好感度が上がるんだろう?

まぁ、いいや。とりあえず、僕はこの少女を家まで送り届けなければならない。少しでも、関わってしまったからには。
…それが、義理というものなのだろうから。
なので。

「なぁ…君、名前は…?」

出来る限り優しい口調で、話し掛けてみた。第一印象は重要だからね。
すると。

「僕は…あの…ええと…その…」

少女はうろたえ、目を白黒させながら、僕との会話を試みた。
話し掛けて初めて知ったが、この子、今時の少女にしては珍しい…いや、今時の少女でなくても珍しい、一人称が『僕』の子だ。こういう人種はもう、とっくの昔に絶滅したと思っていたが、まだ細々と生き延びていたとは。いるところにはいるんだなぁ。なんか感動。
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