呪われ姫と強運の髭騎士
 ――なら、仲良くなって夫婦として楽しく過ごそう、と。
 
 ――もしかしたら『諦め』に心の何処かで拒絶して『髭、怖い』として表に出てきていたの?

 
 そうなら騎士らしい慇懃な態度を続けてきたクリスに、何て申し訳ないことを自分は尋ねたのだろう。 彼の気持ちも知らないで。

「申し訳ありません……私の態度のせいなのに……」
「――いえ、これは私のためでもあるわけですからお気になさらずに」
「でも……!」
 
 何処までも自分に優しく接しようとするクリスの顔を見上げて――思わず目を見開き凝視してしまった。
 
 茹で上がった状態で、身体から湯気がたっていたからだ。

「……クリス様?」
 
 ソニアが彼の名を呼ぶと、クリスは拳で口を塞ぎ恥ずかしいそうに視線を反らした。

「……騎士で貴女に接した方が正常でいられるのですよ。その、騎士の鎧を脱いでしまうと私は、ただのおっさんのクリスフォード・コルトーになって貴女を見てしまうから……」
「は……はぁ……」
 
 ソニアもつられて赤くなる。

「言っておきますが、私は少女が好みとか――そう言う性癖はありませんので」
「は……い」
 
 こそばゆい居づらさだ。ソニアは思った。
 
 クリスもきっとそう感じたのだろう。

「では、中央教会に連絡をしてきます。失礼!」
と、足早に部屋から出ていった。


「大人の恋は複雑なのね……」

 
 ソニアは、手打ちわで顔の火照りを冷ましながらぼやいた。
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