呪われ姫と強運の髭騎士
「恐らくね、呪いに巻き込まれているのは、『婚約者』のクリスフォードの方だよ。彼ならいずれこの『呪い』を打ち砕してくれるだろう。何せ、神のお告げで選ばれたのだし」
「その間にクレア家の女主人の心を射止めて、クリスフォード様が呪いを破ったあとにセヴラン様がご結婚……なさる気なのね? ――ひどいお方ね」
 
 女は、非難する言葉とは全く違う態度でクスクスと笑いながら、再びセヴランの肩に頬を寄せた。

「僕と君のためさ。君はもう、旦那に財産を管理されて自由に使えない。僕も放蕩が父の逆鱗に触れて、差し止められてしまっている――愛しい君と過ごす時間のために使っていたのに……父は僕の気持ちを分かってくれないなんて……」
「セヴラン様……嬉しいわ、わたくしのために愛の無い結婚をする決意をするなんて……」
「カトリーヌ、君に貧しい思いはさせないよ」
 
 そう言いながらセヴランは、カトリーヌと呼んだ女を抱き締めて包容を繰り返す。
 
 しばらく熱烈な口づけをした後、二人はゆっくりと離れた。

「クレア家の女主人に心を奪われたりしないでね? わたくしの可愛いセヴラン」
「決まってる。彼女は僕にとって幼馴染みだけどそれ以上の気持ちはない。――でも、結婚したら跡継ぎを残すために、子作り――あっ!」
 
 セヴランは、何かを思い出したかのように声を上げて立ち上がった。

「結婚の承諾を父からえるために、ソニアを部屋まで迎えにいくんだった! 大分遅れてしまったぞ!」
「まあ、怒って結婚話は無かったことにされてよ?」
「彼女は初恋の僕に夢中だよ。じっと根気よく待っているさ」
 
 早くお行きなさいと、急かすカトリーヌの手をセヴランは名残惜しむように握り、そこに何度も口づけをする。

「もう……!  早く行きなさいってば!」
 
 まんざらでない様子でそうカトリーヌが言う。

「じゃあ、また使いに手紙を渡すよ」
 
 セヴランは艶っぽく笑う彼女に満面の笑みを返し、東谷から出ていった。
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