呪われ姫と強運の髭騎士

(2)

「ソ、ソニア……! 丁度良かった! 今から迎えに行こうと思っていたんだよ。すまないね、どうしても離れられない用事があったんだ」
 
 そう言いながら、セヴランはソニアの手を引いてその場を離れようとする。

(その間に、東屋にいる女を逃がそうとするの?)
 
 ソニアにはそう取れた。
 
 だからセヴランの手を払い、闇の先に隠れようとする女に声をかけた。

「お待ち下さい! お話しは全て聞いておりました! 貴女はそれで良いのですか? 好きな人が好きでもない人と結婚するつもりなんですよ?」
 
 そうソニアが言っても女は振り返らずに、早足で逃げていく。
 
 引きずるほど長いドレスの裾を持ち上げ、不安定な足取りだ。 
 
 ヒールがとんでもなく高い。
 
 そして細いからだろう。
 
 こんな靴を履いていれば全速力は無理だ。

 いや、全速力で走る、という行為そのものを貴族の淑女が行うかどうかだ。
 
 しかし、ソニアは長い修道院生活で踵の低い靴しか履いたことがない。
 
 なので、この舞踏会でも慣れた踵の低い靴で出席していた。

 しかも足腰には自信がある。

(踏ん張ってモップ掛けをしていた修道院生活をなめるな!)
 
 ――今、ここで出さなきゃ何処で出すの? と、見当違いの場で実力を発揮しようとソニアは走る。
 
 鍛えた足腰が功を奏したのか、あっという間に差が縮まり女はソニアに捕まった。
 
 ソニアは女に
「好き合っているなら、どうしてセヴラン様に反対をしないのですか? お金って言っていましたけど、何か困窮している訳でもあるのですか?」  
そう立て続けに尋ねる。
 
 薄ら闇の中、ソニアに振り返った女は、化粧で縁取った瞳を大きく開く。

 まるで変わったものでも見ているように。
 
 ソニアも泣きたくなるのを必死に耐えて彼女を見据えた。
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