呪われ姫と強運の髭騎士

(5)

 パトリスの深い溜息が続く。ワインを口にする時くらいだ、溜息が止まるのは。
 
 そして、右隣に設置された一人掛け用のゆったりとした椅子には、背中を丸めて落ち込んでいるセヴランが座っている。
 
 クリスは扉の横に控えて、二人の様子を眺めていた。
 
 といっても、クリスも落ち着いて眺めているわけじゃない。


(ソニア姫は、お一人で平気だろうか?)
 
 頭の中では彼女のことで一杯だった。
 
 普通の子女であったら、ここまでで既に気が滅入っているか、精神的におかしくなっても不思議じゃない。
 
 時々、現象を目の辺りにして落ち込んでいたが、それでも健気に笑顔でいた。
 
 そんな彼女を騎士として守るだけでなく、一人の男性として守りたいと思うようになったのは、ごく自然の感情の流れだった。
 
 最初は、この呪われた家系を救って、自分は結婚を辞退するつもりでいた。
 
 呪いを打破する――ディヤマンとしての血が疼いたので、お受けしたまでのこと。
 
 それに呪いが解消されたら、数ある名家の子息がこぞって求婚しにやって来るだろう。
 
 自分も貴族の家系だが、身分としては低いし地位も財も貰えない三男だ。
 
 しかも三十後半のおっさん。
 
 若い娘が相手にするとは考えづらい。
 

 だから、受けたのだ。
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