呪われ姫と強運の髭騎士
 開けてすぐの部屋には、控えの侍女が兵士と同じように倒れている。
 
 クリスは彼女の息があることを確認すると、奥の部屋に繋がる扉に足早く迫る。
 
 この扉の向こうには、ソニアが一人で残っていた。
 
 兵士の話だと、後から令嬢らしき女が一人、入ってきたのは間違いなさそうだ。
 
 クリスが扉の取っ手に手を掛けた時――

「パメラ……そうね、私達、生きていても仕方がないのかも知れないわ……」
「ええ、そうよ、ソニア……。だって貴女の血は、強欲にまみれているもの。神につかえる者の土地を奪うなんて、悪魔に取憑かれた者しか出来ないわ」
 
 ――何だ?
 
 ソニアといる女の声がおかしい。
 
 いや、女と男がいてソニアを惑わしていているのか?
 
 そう思うのは、男の声と女の声が同時に発し、同じ台詞を一語一句違えずに喋っているように聞こえたからだ。
 
 ――しかし

「ソニア、悪い貴女の血はもうこの世に残してはいけないわ……。死にましょう? 寂しくないように私も一緒にいってあげる」
 
 禍々しさが扉を越えて、自分の身にまで伝わる。
 
 何より話す内容が――クレア家の内情にかかるものではないか。

「ソニア様!」
 
 クリスは畏怖を掻き消すかのように、部屋に飛び込んでいく。
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