呪われ姫と強運の髭騎士
「王妃! 下がってください!」
 
 クリスが叫ぶ。
 
 両手を付いて項垂れるパメラの黒髪が、ざわざわと風も無いのに動き出した。
 
 それは頭から、無数の蛇がうねっているようにも見えて不気味だ。
 
 流石に危険を察知した王妃も後退する。

 <おのれ……何度も私の邪魔を……>
 
 這いずるような低い男の声がパメラから聞こえ、瞬時、こちらに顔を向けた。

「―― !」
 
 バメラの性格を表すような、穏やかな少女の顔ではない。
 
 憎々しげにこちらを睨む顔は、栄養過多で太りすぎてパンパンに腫れた顔だった。
 
 血圧が高いのが一目で分かる程の赤ら顔に、丸い鼻。そして小さめの瞳と口。
 
 それは醜悪に歪んでいた。

「パ……パメラじゃない……! パメラじゃないのに……身体はパメラの……!」
 
 事態を飲み込めず、混乱を起こしているソニアの肩をクリスは引き寄せる。
 
 怯えてこちらを見ているソニアに、不気味な笑いを見せながらパメラは立ち上がった。
 
 そして両手を広げ王者のごとく、堂々とソニアを見下ろす。

 <この娘の身体は、私がもらい受けました。――大変過ごしやすい身体で私も助かっていますよ。あのセヴランとかいう王子でも良かったのですが……清らかな身体に腐敗した心、と言う対極する中で悩み苦しむ、この娘の中の方が居心地が宜しい――助けを求めて止まない心は、私を清々しく愉快な気持ちにさせてくれます>
 

 ――腐敗した心?
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