呪われ姫と強運の髭騎士
「パメラは……どこへいったの? 腐敗したって……パメラは何をしたの?」

 <おのれの現状に耐えきれず、神にすがりました。神の御使いであるこの私に! 安心なさい……ゆっくり、ゆっくりと私と同化し、私の一部となっていく。これは大変に名誉なことだ――さあ……>
 
 パメラの手が、ソニアに差し出される。

 <たった一人の友の手で、その罪深き血を未来永劫に幕を閉じることが出来るのですよ。私のせめてもの温情です>

「……パメラをどうする気?」
 
 ソニアの問いに男は顔をパメラに戻し、口角を下げて悲しい表情が表れた。

 <辛いの……とても。叔父は広げた事業が失敗して、私が両親から受け継いだ財産にも手を出したの……。だけど更に借金が重なるだけで……私を担保にして、あんな悪どい金貸しの息子に引き渡すのよ……。私……すごく嫌なのに、嫌なのに! その人達の前では笑ってみせて、楽しくもない話にもいかにも楽しそうにしてみせて……! 変わらないわ!  修道院にいた頃と、ソニアの前にいた頃と変わらない!  自分を偽って……!>

「パメラ……」

 <ソニア、私、いつも貴女が羨ましかった。いつだって、誰かが貴女を気にかけていてくれている。気が付けば貴女の回りには人が集まっている。シスター達や、修道院に行儀見習いに来た子女達――みんな貴女に惹かれていく。私は必死だった……。同室で他の人達よりずっと貴女に近い位置にいたけど、いつ嫌われるか、いつ仲間外れにされるか怖かった……。もしかしたらクレア家の主人としての力を利用して、修道院から私を追い出すかも知れない――私、修道院を追い出されたら、何処も行くところが無いって知っていた。叔父と叔父の家族が私の場所を取り上げて、私の居場所は無かったから……必死だった。貴女に嫌われないように良い顔して、神経すり減らしてヒヤヒヤして。貴女が修道院から出て行ってくれて、心からホッとしたわ>
 
 フッと微かに息を吐き、安堵の表情を浮かべたパメラだったが、すぐに悲しげな顔に戻る。
 
 胸に手を当てて、息苦しそうに顔を歪めた。
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