呪われ姫と強運の髭騎士
 クリスに駆け寄り、手で押さえている額を見て短い悲鳴をあげた。
 
 彼の大きな手の隙間から、鮮血が滴り落ちている。

(私のせいだ)
 
 そうソニアの表情に出ていたのに、クリスは気付いたのだろう。

「ソニア様が当たらなくて良かった! 大丈夫、これしきのこと!」
 
 そう笑いかけ、着用したダルマチィカの裾を破る。

「私が……」
 
 ダルマチィカの切れ端を受け取ると、ソニアは目にまで流れている彼の血を拭き取る。

「ごめんなさい、私のせいでこんな怪我を……!」
「頭や顔は、見た目より血が多く流れるものです。ご心配なさるな」
 
 決壊しかかっているソニアの涙腺が、瞳を揺らしている。
 
 クリスは泣くのを堪えながら、素早く切れ端を額に巻くソニアの頭を安心するようにと撫でた。

「――危ない!」

 ビュン! 

 と、空を切る音の後に重々しくぶつかる音――それだけは間近に聞こえた。
 
 一瞬のうちにクリスに覆い被されて、彼のがっしりとした肩の重さと腕の力強さを知って、直ぐに軽くなった。
 
 彼の身体で出来た闇がゆっくりと開いていく――それはソニアがそう感じただけで、きっとあっという間の出来事だったのだろう。
 
 ゴトン!

 と、固い石床に倒れる大きな体躯。

「……クリス様!」
 
 人の頭大の、大きな瓦礫が転がっている。

 <ハハハハハハハハ!>
 
 パメラの身体を乗っ取った男が、愉快そうに笑い続けている。

 <俺の正体に気付いてしまった! 生かしておくわけにはいかぬ!>

「クリス様!しっかりして!」
 
 仰向けで倒れたクリスの顔を擦る。

(まさか死んでしまったの?)

「クリス様、クリス様!」
「うっ……」

 と微かに顔が歪む。

 ソニアの声に答えようと、必死に彼の頭が揺らいでいた。

「大……じょ……ぶ……だい……」
 
 衝撃でまだ頭がはっきりしていないのか、そうしきりに呟いていた。



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