呪われ姫と強運の髭騎士
 長柄にくくりつけられた馬達が急に暴れだした。馬車が前後左右に激しく揺れる。

「――な! 落ち着け!」
 
 御者が慌てて馬達を押さえるが、泡を吹くほどの興奮ぶりに押さえきれない。

「――きゃっ! こ、怖い……!」
 
 ソニアは揺れる車内の中で、座席に横倒しされて激しさに起き上がれずにいた。

「姫!」
 
 クリスは馬を押さえるより先に、ソニアを降ろそうと再び馬車に足をかけるが
「ヒヒィィィィィィン!」
馬が一声嘶くと、駆け出してしまった。ソニアを乗せたまま。

「ソニア様!」
「ソニア姫!」
 
 クリスは咄嗟に、開かれたままの扉にしがみついた。
 
 馬は、狂ったように滅茶苦茶に道無き道を走っていっていく。

「助けて! 誰か!」
 
 ソニアは開かれた扉から振り落とされないように、必死に車内のカーテンにしがみついていた。
 
 恐怖で助けを呼びながら泣き叫ぶ。
 
 馬は馬車を激しく揺さぶりながら、ある方向へ走っていった。
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