反逆の騎士長様


その時、私は彼の首元に光るネックレスが目に入った。

鎖の先には、何やら魔法陣のようなものが刻まれた透明な石が付いている。



「そのネックレスは、騎士団の印のようなものなんですか?

魔法陣が描かれているみたいですけど…」



すると、彼は静かに呟いた。



「いえ。これは俺の私物です。

大臣から付けるように言われていて……
“首輪”のようなものです。」



…この人、問題児か何かなのかな。


まぁ、一見怖そうだし、人を近づけさせない雰囲気があるから

騎士団の仲間と仲良くなれないのかもしれない。


…いや、もしかしてすごく偉い人なのかも。



私は、そんなことを考えると彼に何も言えなくなってしまい、彼は彼で私と目も合わせようとしないので

結局、馬車の中は気まずいを通り越すレベルで居心地が悪かった。


私は、沈黙に耐えかねて口を開く。



「あのぅ…何かお話ししませんか?

ノクトラームの歴史でも、クロウさんのことでも…」



「………。」



「…すみません。」



…。


どうして、この人を使者に寄越したんだろう。

この人、絶対使者向きじゃないよ。



私は、心の底に疑問をそっと押し込めて

ひたすら外を眺めながら今日から始まる新婚生活に思いを馳せたのだった。



**



そんなこんなで馬車に揺られること一時間。

やっと、窓の外に大きな城が見えてきた。



…わぁ、大きい…!



話には聞いていたけど、私の国とは比べものにならないほどの荘厳な城だ。


政略結婚とはいえ、ここに嫁ぐことになるなんて、思ってもみなかった。


そういえば、私は結婚相手の王子の顔を一度も見たことがない。


結婚の手続きや会談などは、すべてこの国の大臣が私の城にやって来て話をしていた。



…王様と王妃様にも会ったことがないなんて

これは壮大なドッキリとかじゃないよね…?



すると、その時

馬車を引いていた馬が小さくいなないて馬車が停止した。


クロウさんが立ち上がって、ガチャ、と馬車の扉を開ける。



「…さぁ、降りてください。

今日からここが、貴方の住む城です。」



…!



カツ…、と馬車から地面に降り立つと

そこは、ドナータルーズとは別世界だった。



レンガ造りの橋の先には、大きな黒い門が口を開けている。

そしてその先には、近くで見ると大きさに目がくらみそうになる程のどデカイ城。



…私は、今日からここの“姫”になるんだ…!



言いようの無い緊張感が私の体を硬直させた。


つい、目を輝かせて城を眺めていると、橋の向こうから黒いヒゲを生やした男性がこちらに向かって歩いてきた。



…!

あの人は…!



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