【B】眠らない街で愛を囁いて


その日、8時から17時までの初勤務を終えた私は隣のカフェで、永橋さんとお茶をして帰ることになった。


何度もシアトルから日本初上陸したカフェは、
このビルの名物の一つにもなっているみたいで、夕方も、いろんなお客さんで賑わっていた。

そんなお客さんたちに紛れて、思い思いの飲物を注文すると私たちはテーブル席へと着席する。




「改めまして。
 でもびっくりしたわ、あなたが同じバイトをするようになるなんて。

 けど私たちラッキーよね。
 このビルって、恋するビルって言われてるのよ。

 
 コンビニでレジしてても、いろんなタイプのイケメンに出逢えるわよ。
 目の保養になるんだから」


そんなことを言いながら、視線を周囲に向ける。




「ほらっ、あそこ。右奥のテーブルにいる人。
 あの人はね、確か29階の法律事務所の弁護士さん」


そう言って、うっとりとしている、永橋さんのテンポに思わずびっくりしてしまう。


「それで今カウンター席にいる右から2番目の人は、
 4階の歯医者さんの先生たよー。

 かっこいいよね。
 あの先生に診察してほしくて、子供からお祖母ちゃんまで幅広い世代が
 通院に来るんだから。

 私も一度、虫歯になった時にいったんだけど、声がいいのよ。
 あのマスク越しに感じる息遣いが、もう犯罪よ」


えっ?マスク越しの息遣いが犯罪?
何言ってんの?


時折、意味不明な言葉の羅列を続ける永橋さんに、少しドン引きしながらも、
その後に延々と続いたこのビルのイケメン講義を1時間くらい受けて、
私たちは職場のある建物を後にした。



恋するビルなんて、非現実すぎるよ。



そうやって割り切ってた、このビルで私はあの人ともう一度再会する羽目になるなんて、
この時の私には知る由もなかった。
























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