【B】眠らない街で愛を囁いて




「田中さん、お忙しいところに誘ってしまってすいません。

 ちょっと今日、仕事で嫌なことがありまして、
 田中さんとゆっくり過ごせたら、何か解決策が出てくるかなーっと」

「私もなんです。
 職場に私のこと目の敵にするお局様がいるんですねー。

 今日もちょっと間違えただけで、ガミガミ説教され続けて気分萎えすぎなんです」


「あぁ、そんなことがあったんですねー。
 さて少し6階で食事でもしていきましょうか?

 話を聞くくらいしか出来ませんが、私で良ければお付き合いしますよー」」
 





聞くつもりはなくても、そんな会話が聴覚を刺激していく。



「あぁ、貴方もいかがですか?
 他の会社の方と交流するのも、時にはいいもんですよ」



そういってにっこりと笑って俺に視線を向ける。



「お誘い頂けて有難うございます。
 まだ仕事が残っていますので今日はやめておきます。
 皆さんで楽しんできてください」



当たり障りなく、社交辞令を並べて断るとオフィスに帰る前に何かを調達しようと、
二階へと続くコンビニへと向かった。





「いらっしゃいませ、こんにちは。
 ただいま、フライドチキンが揚げたてです。

 いかがですか?」




元気よく飛び交う声に、オウム返しで「いかがですか?」っと続けられたその声に、
俺は店内の隅々まで声の主を探し続けた。



お菓子コーナーの一角で、腰をかがめて品出しの作業を続ける『かなめ』の姿がそこにあった。



「いらっしゃいませ」


近くに行くと、彼女は俺の通り道を確保するように立ち上がって端によると、
お辞儀と共に挨拶をする。



思わず足を止めて話しかけようとした時、
『レジ応援お願いします』っと、もう一人のスタッフの声が店内に響く。



「お客様すいません。失礼いたします」っと、
理を入れた後、前を通り抜けてカウンターの中へと消えていく彼女。



そんな仕事を続ける彼女へと、視線は釘付けになる。



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