【B】眠らない街で愛を囁いて


「とりあえず、今から少し脳の検査をしてみようか。
 てんかん症状が隠れている病気もあるからね」


言われるままに私はお医者様の言うままに幾つかの検査を受けて病室へと戻ってきた。



あっ……病室に戻ってからも、初めて思考が追いつく。

この部屋、個室だ。
大部屋じゃない。


幾らするんだろう?



何処までも庶民で貧乏性だ。




「あの……個室は高いので大部屋に移らせてください」


泉原さんに向かって伝えるもののホテルの時の用、
泉原さんは「お金のことは気にしなくていいから」っと柔らかに言葉を返すのみだった。



暫くして、検査結果を持った千暁先生が病室を訪ねてきたけど、
検査に異常はなかったみたいだった。




「だけど、兄貴、叶夢ちゃんあんなに苦しんでたんだよ」


そういってお兄さんの診断に納得がいかないそぶりの、
泉谷さんは詰め寄る様に言葉を放つ。


そんな二人を見ているとずっと独りで抱え続けていたことを、
自分の言葉で伝えようと思えた。



時折、今回のように高校生の頃から体調が絶不調になること。


特定の方向を向いた時に、頭が割れそうなほどの強い耳鳴りが何日間も続くこと。
体の節々が針を刺したように痛くなること。



そして……そんな時間が続くと、恐怖で眠れなくなること。
その現実から逃げる様に、学校やバイトを必死にこなしているほうが、
その恐怖の存在を忘れることが出来たと言うこと。



そしてその痛みが消失した数日後に、世界のどこかで大きな地震が起こると言うこと。



「叶夢ちゃん……」


言葉を失ったような、泉谷さんの声。


「叶夢さん、それは一人で辛かったね。
 大丈夫だよ。

 これからはそんな風に体調に何かがあった時は、
 無理をせずにクリニックを訪ねてきてください。

 医学の立場で、その痛みを軽減させることは出来るかもしれませんよ」


そういって、千暁先生も私の言葉を受け止めてくれた。




ずっと軽蔑されると思ってた、信じてもらえないと思ってた……。
理解されないと決めつけていたその苦しみに、
ゆっくりと寄り添ってくれる温もり。

 
ほんの少しの理解者に出逢えることが、
こんなにも救われることだなんて、生まれて初めて気が付いた。


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