【B】眠らない街で愛を囁いて
22.辿り着いた場所 -千翔-


あの貴江の事件から暫くしてから叶夢は姿を消した。

永橋さんの話によると貴江と叶夢ちゃんの殺傷未遂事件のことを知った
本部の方から双方に解雇通告が出たとかで、その店を即日退職させられたのだと聞かされた。


たまらなくなってアパートへと向かい叶夢が居ないかを確認するものの、
叶夢はそこには居なかった。


そこの大家さんの元へと尋ねる。


「すいません。
 こちらにお住いの名桐さんを見かけませんでしたか?」


俺が切り出すと一週間前の夜、大きな旅行鞄を持って何処かへと出掛けたのだと言う。


大家さんの敷地内にある、見覚えのある看板を確認して
俺は再び、兄貴から拝借した車へと乗り込んだ。

まっすぐに向かったのは、B.C. square TOKYO。

いつもの俺のオフィスではなく、まっすぐに八階から十階に構える会社へと向かった。

エレベーターに乗り込むといつものようにIDカードをかざして行く先を指定する。

十階の社長室へと続く階へエレベーターを止めると、
再びセキュリティーゲートにカードをかざして中へと踏み込む。



「千翔坊ちゃま」


まっ先に俺の存在に気が付いたのは親父の片腕として長年支えてくれた伊川【いかわ】さん。


「ご無沙汰しております。
 突然の訪問で申し訳ありません。千凱兄……社長に取り付いていただけませんか?」

「千凱様は現在商談中で一時間ほどかかる予定です」

「では伊川さんにお願いします。
 
 うちの会社が賃貸契約の仲介をしているアパートのことで、
 知りたいことがありまして……」


そう言って伊川さんに切り出すとアパートのことを調べていると同時に、
そこに住む人々の賃貸契約書のファイルへと手を伸ばす。


部屋数が少ないアパートなので名桐叶夢の文字を見つけるのに時間はかからなかった。
ファイルの中から保証人欄に記されている、叶夢の実家らしい住所を見つけ出した。

すかさずスマホの中に打ち込んでファイルを閉じて棚へと片づけた。




「千翔坊っちゃん……」


俺の行動の一部始終は、伊川さんによって目撃されてしまっていた。


「坊ちゃん、外部の人間には契約内容を開示するのはマズいんですよ」


そうやって言うのは、凱兄のサポートをするはずだと思っていた、暁兄は医者になって四階で開業。
末の俺は家のビジネスを放置して、学生の時からパソコンを使って起業した。

よって伊川さんは遠巻きに経営に関わってきなさいっと告げている。



とは言われても、今はまだ自分の仕事を好きにしていたい。


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