【B】眠らない街で愛を囁いて

そんな決断のできない私を、千翔はにこにこ笑いながら見守ってくれて、
織笑は「とっととレジに持ってく」っと先にその服を掴み取って、
私をレジへと逃げられないように連れていく。


だけどそんな真逆な二人だけどそんな二人がいる世界で千翔の家族や、
離れて住む私の家族たちの優しさを感じながら私は一日一日を大切に生きていく。



千翔の傍に居ると千翔が狭間へと捕らわれなくなるってそう言った彼の言葉は今も有効みたいで、
「叶夢、お前には百鬼の血が濃いのかも知れないな」なんてお祖母ちゃんには言われたけど、
そんなのわかんない。


ただ私の傍にいることで、私が千翔を助けてあげられる。


そして私が地震体感の渦に飲まれそうになった時、
ただ傍で優しく包み込んでくれる。


何かの異変を感じながらも、それを告げることも出来ずただ起こった地震の被害を知って、
「もっと私に力があったら。何処で何時何が起きるのか、間違えない予言が出来たら」なんて、
あてのない力の存在に自分を責め続ける時間。


そんな時間から助け出してくれる。



「叶夢、着替え終わった?
 ほらっ、下のカフェからモーニングセットが届いたよ」



ノックの後のその声に、鞄を肩から掛けて慌てて部屋飛び出す。


向かい合うようにテーブルについて、
朝食を食べ終わると、同じように部屋を出ていく。


地下の管理人室まで辿り着くと千暁さんの愛車から今も一台拝借して、
大学へと送り届ける千翔。



「いってらっしゃい。叶夢。
 今日は俺、16時からミーティングなんだ。
 2時間か3時間くらいかかるだろうからご飯は53階に行こう。

 連絡しておく」

「うん。
 じゃあ、そのつもりで準備しておくね。
 行ってきます」





私と千翔が住んでいるところはB.C. square TOKYO。

玉の輿に憧れたOLさんたちから、
夢を託して呼ばれる愛称は恋するビル。


だけど……恋するビルで生活する人たちからは、
「眠らない街」。



地下5階から屋上までの全ての建物の何処かは、
24時間の中で起き続けてる。


全ての街【テナント】が一斉に眠ることはない。




『叶夢、高校を卒業した年、お前は運命の人に出逢うだろう。
 その手に未来を掴み取れ』



今は亡き、大婆さまの予言は当たった。



眠らない街……B.C. square TOKYO。


眠らない街の秘密の館。
52階で今日も愛を感じ続ける。


二人で愛を囁きながら。







【完】











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