キミのトナリ


その頃の彼の日記にはこんなことが綴られていた。


こないだ矢野から、先日彼女がつまらないミスをしたときいた。
そして、休暇をとるように言ったけれど、がんばると言ってる。けれど気がかりだ、とも。

彼女がそんなミスをするなんて。
そして、それを矢野からきかされるなんて。矢野から心配されるなんて。

俺が病気にならなければ、彼女は仕事に集中できただろうし。


矢野とは同期で誰よりも信頼しているし、尊敬している。

そして、実は彼女を好きになったのは矢野のほうが多分先だ。
おそらく今も彼女のことを好きでいる。

だからこそ、矢野から彼女のことをきかされるのは心苦しい。


それから、今日電話をくれた時、友だちが結婚したって言ってた。

「羨ましいな」って言っていた。
冗談っぽくだったけれど、電話越しでもわかる、あれはまぎれもなく本音まじりだ。

彼女の言葉が胸に深く突き刺さった。
そして、それに対して、笑うしかできなかった自分のふがいなさに腹が立った。

本当ならあの日プロポーズするはずだったのに。


俺が彼女のことを意識するようになったのは彼女が入社して少ししてから。

頭の回転が速く、とにかく一生懸命だった。
結婚しても彼女が望むなら共働きだって家事の分担だってしたい。
彼女の働く姿は本当にかっこよくきれいだ。

矢野は彼女への気持ちを打ち明けたことはないし、誰よりも俺たちのことを応援していることはわかっている。
だから、この機に乗じて俺から彼女を奪うなんてこと矢野に限ってありえないことはわかっている。

だけど、俺はどうしようもなく矢野に嫉妬しているし、彼女が矢野とどうかなるんじゃないかと不安で仕方がない。


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