キミのトナリ


「たいしたことないじゃない!」

思わず声を荒げてしまった。


彼が治療を始めてから三ヶ月が経った。

ガン治療はそれなりに順調だった。
だけど、私たちの関係は確実に歪みを生じていた。


終電で帰宅する生活が続いていた私が彼に会いに行けるのは週末だけ。
だけど、今日はその一週間ぶりの彼との貴重な週末に実家に戻っていた。

父が入院したと慌てた様子の母親から前日に連絡が入っていたため、朝イチの新幹線に飛び乗って入院先の病院へと急いだ。

病室に入ると、目の前には和気藹々と父を囲んだ母と姉家族の様子。

脱力したのと同時に湧き上がってくる苛立ちを、私は抑えることが出来なかった。

わざわざ帰ってくるような状態じゃないじゃない!

そう思うと同時に気づけば喚き散らすようにして発言していた。


「たいしたことないことはないわよ?大腿骨骨折して手術したんだし」

姉が眉間に皺を寄せてボソリと反論する。

たいしたことないわよ!
彼に較べたら!

「ごめんね、麻耶。お母さん動揺しちゃって」

母が申し訳なさそうにしてる姿に罪悪感。
それでもやっぱり苛立ちは収まるどころか、募る一方。

もうやだ、今すぐ帰りたい。
今すぐ彼に会いたい。

「……」

「いいかげんにしなよ」

ムスッとしてる私に姉がぴしゃりと言い放った。

「……帰る」

苛立ちとふがいなさとみじめな気持ちとが入りまじった気持ちで踵を返す。

「わざわざ忙しいのにきてくれてありがとな。仕事がんばれよ」

お父さんの哀しそうな声が背後でした。

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