誰にも言えない秘密の結婚




「吉田、行くよ!」



18時の終業時間。


私に声をかけたのは後藤さんだった。


鞄を持つ手がピタッと止まる。


あぁ、来てしまった……。


いつもなら早く帰りたいと思うけど、今日ばかりは明日の朝まで残業したいと思ってしまう。


と言っても、今日は残業するような急ぎの仕事なんてないし、そもそも事務員だから残業なんてほとんどしないけど。



「吉田?どうした?何かあったのか?」



そう聞いてきた藤原さんの顔は、どことなく心配そうな感じに見えた。



「みなさんに飲みに誘われて……」



私は作り笑顔でそう答えた。


藤原さんは驚いた顔をしている。


そりゃそうだろう、無視したり意地悪して来た人が飲みに誘って来たんだから。



「吉田、早くしろよ!置いて行くぞ?」



次に声をかけてきたのは坂上さん。



「あ、はい!」



もう、逃げられない。


私は鞄を持って、藤原さんと社長に挨拶をして深呼吸をしたあと、みんなについて事務所を出た。




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