誰にも言えない秘密の結婚
「あ、でも、何で藤原さん、私が一人暮らしをしていること知ってるんですか?」
社長には話した記憶があるけど、藤原さんや後藤さんたちには話した記憶はない。
「空翔から聞いた」
「そうだったんですね」
「あぁ、履歴書見せられて、今度新しい子が入るから、いろいろ教えてやってくれって言われて、その時にご丁寧に一人暮らしをしているらしいぞってことも教えてくれたよ。何でそんなこと教えてくれたのかわからないけど」
藤原さんはそう言ってクスリと笑った。
藤原さんの運転する車はアパートの前に停まった。
最寄駅まででいいと言ったけど、藤原さんが夜は危ないからとアパートの前まで送ってくれたけど、23年間生きてきた中で一度も痴漢や駅からの帰り道に変な人に付き纏われたりしたことがない。
だから大丈夫だったんだけど……。
「ありがとうございました」
「いいえ。あ、俺の携帯番号を教えとくね。何か書くものある?」
「はい」
私は鞄から手帳を出した。
そこからメモ帳のページを開いて藤原さんに渡した。
手帳を受け取った藤原さんは、そこに携帯番号を書いていく。
「これ、俺の携帯番号」
「あ、はい」
藤原さんから手帳を受け取る。
「ご両親に連絡したら、また電話して?」
「わ、わかりました」
男性から携帯番号を教えられたのなんて初めて。
たったそれだけのことなのに、ドキドキしてしまう。
私はシートベルトを外して、車から降りた。
「じゃあ……またね……」
「はい、気を付けて帰って下さいね」
藤原さんの車がゆっくり出る。
私は車が見えなくなるまで、その場に立っていた。