誰にも言えない秘密の結婚
服を着替えて挨拶して電車で帰る予定が、藤原さんが車で送ってくれることになった。
「ごゆっくり。拓海、帰って来なくていいぞ」
なんて社長に言われるし……。
運転している藤原さんの横顔をチラリと見る。
少し斜めに構えて運転する姿にキューンと胸が苦しくなる。
手料理同様、父親以外の男性の車に乗るなんて初めてで、緊張して手汗かいて気持ち悪い。
藤原さんが車を持っていたことには驚いたけど。
「ん?」
信号待ちの時、藤原さんが私の方を見た。
「どうしたの?俺の顔に何かついてる?」
「えっ?いや、あの……えっと……」
チラ見しただけかと思っていたら、どうやらずっと見ていたらしい。
は、恥ずかしい……。
穴があったら入りたいとはこのことだ。
「そう言えば、吉田って一人暮らしだったよね?」
「あ、はい」
「地元、遠いの?」
「いえ、一人暮らしのアパートから歩いて10分くらいのところです」
「そうなんだ」
「はい……」
大学を卒業して、就職を機に一人暮らしを始めた。
自立するために。
本当は、実家から遠くにアパートを借りたかったけど。
でも一人娘を心配し、一人暮らしに反対だった両親が実家近くにアパートを借りるならと一人暮らしを許してくれた。
だから結婚となれば、どうなるのか……。