誰にも言えない秘密の結婚




「あ、お母さん?寝てた?」


『寝てないよ?どうしたの?』



私はアパートの自分の部屋に帰って、実家に電話した。



「明日ね、何か用事ある?」


『明日?明日は特に何も用事ないけど?』


「お父さんも?」


『うん』


「あのね、お母さん……」


『ん?』


「明日、会社の人を連れて行きたいんだけど、いいかな?」



藤原さんのことをどう言っていいのかわからなかった。


いきなり結婚相手とも言えないし、だからと言って彼氏でもない、仕事では上司と部下。


よくわからない関係。


だから、お母さんにはそう言った。



『えぇ!会社の人?!』



お母さんが驚くのも仕方がない。


小学生の頃から友達を家に連れて行ったことなかったから。


友達がいない私が、いきなり会社の人を連れて行きたいと言ったら驚くよね……。



「うん……」


『何時くらいに?』


「多分、昼前かな?11時とか……」



藤原さんと時間を決めたわけじゃないけどね。



『お昼ご飯、用意しなきゃね』


「うん」


『何がいいかしらねぇ?』


「何でもいいよ」



藤原さんの好きなもの嫌いなもの知らないし……。



『わかった』


「うん、じゃあね、おやすみ」



私は電話を切った。


次は藤原さんに電話しなきゃね……。


鞄から手帳を出して、番号が書かれたページを開く。


緊張感が高まり、スマホを持つ手が震えていた。





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