ミツバチのアンモラル
 
 
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多分、全てを納得したわけじゃない。けれども圭くん自身も、自分の行動や心境が私を始め、周囲とかけ違っているのは理解していたみたいで。


解っていてもどうしようもないジレンマを、少しずつ時間をかけて、圭くんは解きほぐしていってくれた。


絶対だった車での送迎も、回数を徐々に減らし、やがてなくした。それでも時折、用があったついでだと迎えにきてくれ、やがて、それも時間の遅い心細いときに、圭くんから訊ねられたり、私からお願いしてしまうだけになった。
圭くんの知らない交遊関係が出来、少しずつ広がっていく私の行動範囲にも、心配な表情は隠さなかったけれど、囲い込むようなことはなくなった。
怪我をすれば、包丁で指を切っただとか膝を擦りむいた程度であっても、それが私だと途端に青褪める圭くんは、努めて、手当てをしてくれるだけに留まる。
一緒に観ていたテレビの中の美味しそうなスイーツに私が目を輝かせると、圭くんは何時間行列に並んでも嬉々として買ってきてくれては、ちゃんと仕事をしているのかと私に怒られる。けれど同じことをまた繰り返す。
誕生日やクリスマスには、昔から変わりはしないけれどプレゼントを交換しあい、私専用らしい車の助手席に私を乗せてディナーに出掛けたりもする。
甘やかすのは、相変わらずだ。








まだ今でもぎくしゃくする瞬間はあるものの、圭くんと私の間には、昔のような穏やかな空気が流れるようになった。


……そう。それは、兄と妹としてのだと思い知らされながら。
大事な妹だと、圭くんは時折口にしながら。
私には、それが警告にきこえていた。


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