偽りの婚約者に溺愛されています
もうダメだ。
こんな風にされたなら、私の強がりなどすべてが消え失せてしまいそうになる。
彼に婚約者がいても、恋人である日常が嘘であっても、私が彼を好きなことだけは事実だから。
「ん……っ。と……もやさ……」
掴まれた手から力が抜けていく。
あなたはどうして私にこんなことをするの?
このままいっそ、切り捨ててもらえたらいいのに。
そうしたなら、お金だけの関係だったと割り切れる。
そっと離された彼の唇が濡れて光るのを見ながら、私は息を切らしていた。
とろけるような感覚が、全身を駆け巡り朦朧とする。
そんな私を見て、彼は微かに笑った。
「……ようやく可愛くなってきたな。親の決めた婚約なんて、形ばかりのものだ。俺の気持ちはない」
「……相手の方もそうだとは限らないわ」
私が言うと、智也さんは魅惑的な笑顔を見せる。
「気になるか?俺は気になったよ。君が修吾を好きになるんじゃないかってね。だから、慌ててここまで来たんだ」
「……どうして?」
「これ以上言わせたいか?少なくとも俺は、君を男みたいだなんて思ったことはない。……こんな姿を、他のやつに見せたくはないんだ」