偽りの婚約者に溺愛されています
真剣な顔で私を見つめる彼の目が、一瞬揺れたように感じた。
だけどきっと、動揺している訳じゃない。こんな瀬戸際まで、彼の反応に期待する自分が虚しく感じる。
「勝手なことを言うな。ダメだ。まだ……終われない。修吾と会うことは、許さないから」
怒りでカッと顔が火照る。
「確かに、智也さんに黙ってお見合いしたのは悪かったわ。だけど、婚約者がいるだなんて聞いていない。人を傷つけてまで、こんなことがしたかった訳じゃないんです」
「夢子」
逃げ出そうとする私の両手首を彼が掴む。
そのまま壁に押し付けられるようになりながらも、私は抵抗をやめなかった。
「離してください。私を好きでもないのに、智也さんは勝手です。修吾さんの言う通りだわ」
「落ち着けって。夢子」
「嫌っ」
突然、グッと塞がれる唇。
私はなにも言えずに、彼にされるがままになってしまう。