偽りの婚約者に溺愛されています
左手の指輪を見つめる私に、智也さんはさらに言う。
「やっぱり、バスケットボールよりもいいだろ?」
私は彼に目線を移した。
「宝石が嫌いな女の子なんていない。夢子は男じゃないから。俺にとっては、どうしようもないほどに女だよ。こうしなければいられないほどにな」
優しく重なる唇を、目を閉じて受け入れる。
あなたに憧れて、好きになって、そのすべてが欲しくて。
諦めるしかないのだと胸を痛めていた。
「智也さ……」
本当は『あなたが好きだから、偽りの関係なんて嫌なの』と言ってしまいたい。
私の気持ちは、お金で雇い合うような次元じゃないの。
お金を払ってでも、あなたを自分のものにしておきたかった。
「夢……子……」
吐息混じりの声で名前を呼ばれ、朦朧としながらそっと目を閉じた。
私があなたを拒めるはずなんてない。本当は気づいているんでしょ?
唇が塞がっていなかったら、きっとすぐに、そう尋ねていただろう。
彼は、私の中からなにかを奪うように、激しく舌を絡めて奥に入り込んでくる。
そんな彼にギュッとしがみつく。
キスもデートも、すべてが初めての私など、容易くあなたの思い通りになる。婚約者としては足りなくても、桃華さんとどうにかなりたいなら、当て馬には相応しいかもしれない。
初めから、本物になれたことなどほんの一瞬もないのに、どうして私たちはこうしてキスを繰り返すのか。
彼が私に言う、『可愛い』という言葉は、どんな意味なのか。
分からないことばかりだけど、あなたとこうして触れ合えるのならば。
もっと深く、あなたに奪われたい。
私をすべて、あなたに捧げたい。
感情のコントロールができない。
あなたの首に腕を巻き付け、もっと欲しいとねだるように身体を寄せる。