偽りの婚約者に溺愛されています
『そうか。松雪くんがそれを納得しているならば、もう一度会ってもらえるよう、俺から連絡を取るよ。あとは、断るなら三人でうまくやってくれ』

修吾さんに会うことに対して、智也さんの許可などいらない。だけど今はまだ、父にそうは言えない。
父から彼への今後の対応があるから、慎重に切り出さないと。

『あれ。それは?松雪くんにいただいたのか』

私の手元を見て父が言う。

あ。指輪を返しそびれた。

『夢子のことを真剣に考えてくれる人が現れて、ようやく安心したよ。よく男の子に間違えられていたお前が、やっと普通に落ち着いてきた。松雪くんのお陰だな』

安堵したような笑顔で嬉しそうに話す父に、なんといえばよいか分からない。
ただ、智也さんへの気持ちが、自分が女であると実感させてくれたのは確かだ。

父とそんな会話を交わしてから一時間ほどした頃。
家に修吾さんから電話がかかってきた。

『お見合いを断らなかったんだね。今から少し会えない?話したいからさ』


迎えに来た彼の車に乗り込み、近くのカフェに入った。

向かい合って席に着き、正面から彼を見たとき、やっぱり智也さんに似ているとあらためて思い、彼と別れたときのことを思い出すと少し切なくなった。


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