偽りの婚約者に溺愛されています

会社からタクシーで十五分ほどの位置にある、『グローバルスノー第三ジム』。もちろん私も、試合観戦で来たことがある。
スポーツ用品メーカーである『グローバルスノー』が所有するチームは、バスケットボール、サッカー、バレーボール、テニスに水泳、陸上と幅広い。
宣伝と商品実験を兼ね備え、知名度も高いグローバルスノーのチームに入りたいと願う人は多いが、厳しい審査を通過しなくてはならない。ここで活躍する人たちは、一流の選ばれしアスリートたちなのだ。

「はい、着いたよ。降りて」

慣れた足取りで中に入っていく彼に置いていかれないよう、躊躇いながら私もあとを追った。

入口の管理室に彼が軽く手を上げると、そこにいた人が軽く頭を下げる。そこを難なく通過して、そのまま中に入っていく。その奥の体育館の中では、男子バスケットボールの練習が、異様な熱気に包まれながら行われていた。

「うわぁ……」

観客席からそれを見て、思わず感嘆の声が出てしまう。

激しい攻防戦。選手の真剣な眼差し。光る汗。シューズが床にこすれる音と、ボールの衝撃音が館内に響いている。
数年前までは、私もこうしてバスケットボールに打ち込んでいた。辛くも楽しかった日々が思い出される。

「夢子。口が開いてるよ」

隣から智也さんが、笑いを堪えながら言う。

「感動です。グローバルスノーの練習を目の当たりにするなんて。だけど……どうしてここに?」

コートから目を離さないままで尋ねる。





< 151 / 208 >

この作品をシェア

pagetop