偽りの婚約者に溺愛されています

勢いに飲まれて、ただ唖然としていた。

「あ、俺?ああ、ごめんごめん!驚くよな。俺は、松雪悠一。智也と修吾の父だよ」

え。

「グローバルスノーの……松雪社長……?」

やっとの思いで言うと、松雪社長はニッと笑った。

「正解っ!よろしくね!わははは」

彼の反応にいちいちビクッと驚く。
このハイテンションなおじさんが、智也さんのお父さん?落ち着いた印象の彼と、どうも結びつかない。だが、明るく愉快に話す修吾さんとは、よく似ている気がした。

「あっ、あの。笹岡夢子です。受付でここに来るように言われて来ました。智也さんは……?」

尋ねると、松雪社長は笑顔を崩さないままで答える。

「智也はジムだよ。練習があってね。今は不在なんだ。あ、君をここに呼んだのは俺だから!まあ、こっちに来て。智也が戻るまでしばらく話そうか」

驚きで解けてきていた緊張が、再び襲ってくる。
二人でなにを話すのだろう。
まさか、桃華さんのこととか。私がこうしてここまで来たことの、説明を求めるつもりなのかもしれない。
そしたらどう言うべきなんだろう。
智也さんには、婚約者のふりを頼んでいたけど、終わったから修吾さんとお見合いしました?しかも、やはり智也さんが好きだから、今さらですが告白します!?
そんなことを言えるはずなんてない。

「話すことなんて、なにも……」
私がボソッと呟くと、松雪社長の眉尻が下がる。
困ったように笑いながら、彼は私の背を押してさらにこの先を歩くように促した。



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