偽りの婚約者に溺愛されています
そんな私を見て、松雪社長は楽しそうに笑う。

「あはははっ。本当に可愛いお嬢さんだ。俺がもしも若かったら、間違いなく君の争奪戦に参加してるな。言っておくが、智也や修吾には負けないよ?君は彼らじゃなく、俺に惚れると思うな」

どう答えたらいいものか。慣れなくて、本当に困ってしまう。

曖昧に笑いながら、熱い頬を手のひらで隠した。

__バタンッ!

「父さん!」

そのとき急に開いたドアに、ふたりで驚く。
松雪社長は、手にしていたサインペンを床に落とした。
私も扉のほうを見たまま固まる。

「夢子になにを話したんだ」

息を切らしながら入ってきたのは、智也さんだった。

「驚いた。やっぱり来たな。少し落ち着けよ。なにも話してないから」

床に落ちたペンを拾いながら、松雪社長は呆れたように言う。

「じゃあどうして、ここに夢子がいるんだよ。呼び出したんだろ?」

「俺はそんなことはしない。ここへは、夢子さんが自主的に足を運んだんだ。俺はお前が来ることを計算してたよ。相変わらず分かりやすいヤツだ」

「信じられるかよ」

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