偽りの婚約者に溺愛されています
「優しいんですね。私、松雪さんにいただいたチャンスを無駄にはしません。松雪さんみたいに、優しい人と恋ができるように頑張りますね」
「……おう。きっとだぞ。まあ、俺以上の男がそうそういるとは思えないけどな」
__『じゃあ、俺と恋をしたらいいじゃないか。金は返すから』
そう言いかけてやめた。
「やだ。また自意識過剰ですか」
君が心から好きになる男は、どんなやつなのか。
俺が今、君に対して思うことと同じ気持ちを持つのだろうか。
ずっと、自他ともに女性であることを認められなかった君には、小さな子供のようなあどけなさがある。
恋愛の駆け引きや、煩わしい感情のもつれなどを推し量る必要はない。素直で純粋なその心があるだけだ。
小さなネックレスひとつで、自由な君の心を繋ぐことなどできはしない。
「婚約指輪が必要かな」
思わず言うと、彼女は驚いた顔をして手を大げさに振った。
「ええっ。そんなのいりません」
「そ、そうか。ごめん、変なことを言ったな。一応、なにか形になるものを贈るべきかと思ったんだが。ふりとは言え、婚約するとなればさ」
あっさりと断られ、曖昧に笑うしかない。
俺が知ってるような女性が喜ぶ方法など、君にとっては必要のないものだ。
「では指輪よりも、バスケットボールですかね」
「え?バスケットボール?」
素っ頓狂な声で聞きながら、首をかしげる。