偽りの婚約者に溺愛されています
「君だったのか。……いや、夢子から誰かは聞いてなかったからね。……驚いたよ。そうか。君とそんなことに」
事情により、俺をササ印で修行させてくれている笹岡社長は、俺の父の知り合いでもある。
俺がまさか、彼女の紹介したい男だとは思っていなかっただろう。
「このたびは、お嬢様とこのようなことになりまして、ご恩も顧みずに申し訳ありません」
「顔を上げなさい。話は家の中で聞こう。さあ、入って」
優しい声で促され、俺は顔を上げた。
俺の予想に反して社長は、嬉しそうにニコニコしている。
まさか、反対するつもりはないのか。だとしたなら、穏便に話し合える。
多少の修羅場を覚悟していた俺は、そう悟り少し気持ちが楽になった。
「失礼します。……うわっ」
俺が中に入りドアを閉めようとすると、その重厚な玄関のドアが勝手に閉まり驚く。どうやら自動ドアのようだ。
正面を向いて覚悟を決め、社長のあとに付いて家の奥に向かった。