偽りの婚約者に溺愛されています

「君だったのか。……いや、夢子から誰かは聞いてなかったからね。……驚いたよ。そうか。君とそんなことに」

事情により、俺をササ印で修行させてくれている笹岡社長は、俺の父の知り合いでもある。
俺がまさか、彼女の紹介したい男だとは思っていなかっただろう。

「このたびは、お嬢様とこのようなことになりまして、ご恩も顧みずに申し訳ありません」

「顔を上げなさい。話は家の中で聞こう。さあ、入って」

優しい声で促され、俺は顔を上げた。
俺の予想に反して社長は、嬉しそうにニコニコしている。

まさか、反対するつもりはないのか。だとしたなら、穏便に話し合える。
多少の修羅場を覚悟していた俺は、そう悟り少し気持ちが楽になった。

「失礼します。……うわっ」

俺が中に入りドアを閉めようとすると、その重厚な玄関のドアが勝手に閉まり驚く。どうやら自動ドアのようだ。

正面を向いて覚悟を決め、社長のあとに付いて家の奥に向かった。




< 68 / 208 >

この作品をシェア

pagetop