偽りのフィアンセ
──車がゆっくりと停車し、過去に飛んでいた意識が戻る。
目を閉じたままでいると、後部座席のドアが開いて人が乗り込んで来る気配がした。
「お疲れ様、ジンくん。珍しいな、会社に顔出すなんて」
「お疲れ様です。はい……いきなりすみません。ギンガさんが渋滞にはまってしまったらしくて。次の撮影時間まであまり余裕がないので……よろしくお願いします」
すぐ隣から、男の声が凛と響いた。
予想外の丁寧な言葉使いに、あたしは閉じていた目を開いて、声の主に向けた。その視線に気づいた男と視線が絡む。
薄いグレーのサングラスの奥で、男の目が少し細められた。
「お邪魔します」
そう言って微かに微笑んだ男は、山口の言葉をどうり『イケメン』で……
「シージーみたいだねアンタの顔」
「こら、サヤ!」
人間味のない整い過ぎた顔を凝視するあたしの言葉に、山口が慌てて声を上げた。