偽りのフィアンセ
『……サヤ?』
「──山口に、迎え頼んでちょうだい」
突然言葉を切ったあたしを心配する声が聞こえて、再び口を開いたあたしの声は、自分が思った以上に冷めたものだった。
『……わかった、すぐ向かわせる』
少しの沈黙の後、やっぱり優しいままの声。それに少し胸が痛んだ。そして和らぎかけた苛立ちが戻って来る。
だけど、それは自分への苛立ちだ。
『──サヤ』
「もう、切るから」
これ以上心を乱されたくなくて、突き放すように言葉を吐き出し、優しく響く声を遮って返事も待たずに電話を切った。
──十分後。
ファミレスには不似合いな高級車が従業員用の駐車場に入って来た。明らかに浮いている黒塗りの車を前に、微かに笑いを漏らす。
「マジか。もっと普通の車ないのかよ」
「よう、わがまま娘」
「……うるせー、ハゲ」
「おーい、人生のセンパイにハゲはねぇだろ」
運転席の窓を開けて、あたしを見上げた山口は、あたしの悪態に呆れ顔で笑った。