偽りのフィアンセ
「カナメさん落ち込んでたぞ。また冷たくしたんだろー」
後部座席に乗り込んだあたしは、運転席からの冷やかすような声に眉根を寄せた。
「黙って運転しろ万年運転手」
「……お前はアレだな。年を重ねるごとに口が悪くなっていくのな」
呆れるように言う山口の言葉を無視して、窓の外へ目を向けた。それと同時に山口の携帯の着信音が鳴る。
薄茶色の短髪に、鋭い目つき。両耳には無数のピアスの穴。厳つい風貌からは想像できないファンタジーなメロディーに思わず吹き出してしまった。
「そこー、笑うんじゃない。──はい、お疲れ様です」
「……ふ」
しっかり仕事モードで電話に出た山口を鼻で笑うと、バックミラー越しに山口が舌を出した。
「……はい、はい……え──あ、はい、わかりました。でも、今カナメさんのお嬢さんを乗せているんですが……」
『カナメさんのお嬢さん』その言葉に、つい反応して山口に視線を向けると、山口もあたしをチラりと見たので、あたしは先程の山口を真似て舌を出してみせた。
山口のかしこまった態度からして、電話の相手はあのオッサンだろう。