偽りのフィアンセ


───あぁ、そういえば……

あたしは『あの人』が好きだった。綺麗な人だった。

『美人』でも、『可愛い』でもなく、綺麗。そんな言葉が似合う人。


──『 咲夜(サクヤ)ちゃん』

唯一あの人だけが、あたしをそう呼んだ。優しい声で、優しい瞳で、あの人にそう呼ばれるのが好きだった。

まるで、『母親』に呼んでもらってる気分になれたから。あたしにとって、あの人がそれだったのかもしれない。

だから、許せなかった。

四年前──六月十二日。今でも鮮明に覚えている。

静かに降り続ける雨。横に立つカナメ。静かに眠っているあの人。傍に立つオッサン。

そして……オッサンの腕に、自分のそれを巻き付ける場違いな『バカ女』。


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