偽りのフィアンセ
『カナメ』はあたしの父で、『あのオッサン』はカナメが社長を務めているブランド会社の会長で、カナメの中学からの先輩でもある。
まぁ、立派な肩書きがついてはいるが、あたしから見ればただの変態だ。
四年前にオッサンの奥さんが亡くなって、カナメと一緒に葬儀に参列した時。あろうことかオッサンは、その場に愛人らしき派手な若い女を連れていて……。
その日から、あたしにとってあのオッサンは、『カナメの先輩』から『変態糞野郎』という認識に変わった。
「サヤ、悪いが今から会社に人迎えに行くぞ」
電話を終えたらしい山口が、携帯を懐に入れながらあたしへ視線を向ける。
「……誰」
「会長の息子」
「……運転手募集しろよ」
「あいにく、他の奴らはモデルの送迎やらでいねぇんだよ」
「……あんたっていつも空いてるよね」
「……」
「……」
「俺はお前の専属運転手だからな」
「くたばれ」
「おい!!」
「専属のくせに見ず知らずの男と相乗りさせる気かよ」
「あれ、会ったことねぇの?」
あたしの言葉に山口が驚いたように言った。
「ない」
「へー、じゃあ丁度いいじゃねぇか。玉の輿に乗れるチャンスだぞ。イケメンだし」
「バカじゃねーの。あの変態オヤジの息子なんて興味ないっつの」
「あー……お前、オジサンフェチだもんな……って!お前──蹴んなよ!!会社の車なんだからな!!」
運転席のシートを後ろから思い切り蹴ったあたしは、山口が騒ぐのを無視して、目を閉じた。