エア・フリー 〜存在しない私達〜《前編・誕生》
 谷川との電話を切った後の望は忙しかった。

 まず、長男はちょうど大学のサークルの夏合宿で今日はまだ帰らない。

 娘の方にはメールを打った。

「今日は夫婦で帰りが遅くなります。友達のうちに泊めてもらえないかな?」

 すると、すぐに返事が返ってきて

「おっ!お熱いね!!今日は何の記念日かな?なーんていいよ。いいよ。私は彩花んちに泊めてもらうからご心配なく〜」

とひやかしの内容に苦笑いするしかない望だったが、

(よし!これで子供たちは安心だ。)

 そして次の準備に取り掛かった。

 社員証の作成は思ったより簡単だった。

 我ながらいい出来だと眺めていると、ケータイが鳴った。

「俺!こっちはバッチリだけど、そっちはどうかな?」

 谷川は俄然やる気だ。

「うん。今出来たとこだよ。今から着替えようと思って…」

「いや。着替えるのは後がいい。俺も家には帰らないから。今、近くのスーパーの駐車場にいるんだけど、お前も普段着のまま出てくるんだぞ。」

「あっ!そうかまだ見張られてるね私。」

「ああ、多分な。だから電気もテレビも付けたまま裏から出てくるんだぞ。」
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