俺様社長と極甘オフィス
 鹿山さまをエレベーターまで見送り、一度テーブルに戻る。すると社長は大きく肩を落とした。今までの作っていた雰囲気が一瞬にして消える。

「とにかく分かったのは個人的な名称やじいさんにまつわるものではない、ということだな」

「数、と仰っていましたが、なにか関係あるんでしょうか」

「数なぁ。でも誕生日をわざわざ階数に影響させるくらいだから、数が好きなのは間違いないとは思うけれど。五十二を別の言い方にしてみるとか?“ごがつふつか”って入れてみるとか」

「それはもう試してみましたが、違いました」

 即座に否定する私に、社長はなんとも言えない顔になった。

「今日の情報をまとめるためにも、一度デスクに戻ります」

 その声で社長もゆっくりと立ち上がった。なにか言いたそうな表情ではあるが、ここにこれ以上の長居は無用なのでなにも言わないことにする。

 それに、さっきから私はどうも落ち着かなかった。こんな高級ラウンジが場違いであるのはもちろん、男性はともかく目に入る女性はすべてドレスのような華やかな恰好をしている。その点で私はいつものフォーマルな黒いスーツで非常に浮いていた。

 これは仕事なのだから、と言えばそこまでなのだが、なんだか秘書とはいえ、こんな私が社長の隣にいるのが申し訳なく思えてくる。自意識過剰かもしれないが、時折、女性から社長に向けられている視線を感じるから、余計にそう思ってしまうのだ。
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