恋愛上手な   彼の誤算


『じゃあ契約成立ってことで』

歪んだ視界の中でも分かる整った顔が唐突に近づいてくるのに何の反応もできなかった。

「……なっ、な、」

至近距離で爽やかな笑顔を見せられたせいで反応が遅れたが確かに今自分の頬に柔らかい唇が触れた。

「え、ほっぺちゅーだけでそんな可愛い反応されたら俺楽しくなるじゃない」
「ちょ」

待ってこの人、やっぱりチャラそうじゃなくてチャラい。

「早まったって顔してる?でももう契約しちゃったから。それに練習相手として不足はないと思うよ?」

おまけに自分の価値をしっかり分かってる。

「なんなら、今からでも……」
「ちょっと、ちょっと待って!分かったからとりあえず離してください!」

耳元に近付けられた唇から低い声が注ぎ込まれて腕の中から脱出しようと距離をとる。あまりに頭が追い付いていなさすぎて抱き締められていた事実さえ飛んでいた。何てことだ。
とりあえず恋愛経験値の差がプロと幼稚園児レベルほどあることが分かった。
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