恋愛上手な   彼の誤算
「あの、私…恋したことないってさっき言いましたよね」
「うん」
「……契約って言いましたけど、その、つまりどういう……?」

練習だの契約だのと言われても何をどうするのか分からない。そもそも恋人同士の行為ならなんとなく知ってはいるものの、普段何をしているのか具体的にあげろと言われれば答えにつまるレベルだ。

「そうだね、とりあえずルールを決めようか。細かいことは後々決めるとして……」

そこまで言って相沢さんはまたにっこり眩しい笑顔で私を見てピースした。

「大きなルールは二つ。一つはさっきも言ったけどお互いを本気で好きにならないこと。俺今恋人はいらないから。もう一つは最後まで、つまりセックスはなし」
「……わ、分かりました」

男の人から目の前で具体的な単語を出されて少し動揺したものの妥当なルールに頷いた。
恋のできないダメ人間な今の私でもさすがに好きでもない人とそれはできない。そして言わば別世界の住人みたいな人を好きになることもない。

恋をするための経験を積むのだと思えば確かに相手が相沢さんで良かったのかもしれない。

「よ、よろしくお願いします」
「うん、よろしくね」

目の前でお辞儀をすると相沢さんはくすりと笑ってからそう言った。
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