プラス1℃の恋人
 色とりどりの夏野菜の前菜からはじまり、スープ、魚料理と順番に運ばれてくる。

 キラキラしたシャンパンは、甘くて飲みやすかった。
 まるで夢のよう。

 そういえば、ふたりきりになるのは、一緒に残業したのあの日以来だ。

 あの夜、ふたりのあいだになにがあったか、思い切って聞いてみようかな。

 ああ、でも夜は長い。
 いまは、甘い時間をゆっくりと楽しみたい。


 しばらく他愛もない話をしたあと、千坂はふと、ナイフとフォークを置いた。
 真剣な表情でまっすぐ青羽の目をとらえ、何かを探るようにじっと見つめる。

「なんだ、食事がすすんでないな」

 千坂主任が、すてきだからですよ。
 なんてことは言えず、「夜景がすてきで、胸がいっぱいで」と笑顔をつくって、青羽も食事の続きをする。

 すると千坂は、腕組みをしながら椅子の背にもたれ、窓から外の景色を眺めた。そして青羽に向き直って目を細めた。

「最近はどうだ、体調」

「はい。おかげさまで、なんとか大丈夫です」

「そうか。それを聞いて安心した。会社の上司ってのは、半分保護者みたいなもんだからな。危なっかしい部下はちゃんと監督しとかなきゃいかん」

 危なっかしい部下というのは決して誉め言葉ではないと思うけれど、なんだか嬉しい。
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