そろそろ恋する準備を(短編集)
シャワーを浴びて、先輩から借りた服に着替え、濡れた制服を洗濯して干した。初夏の気持ちの良い天気なら、きっとすぐに乾くだろう。
その後ふたりで台所に立って、朝食作りをした。
一人暮らし中の朝比奈先輩はさすがの手際の良さで、鮭を焼いたり出汁巻き卵を作ったり。わたしも一応女子として、わかめと大根と豆腐のお味噌汁と、ほうれん草のおひたしを作った。それに納豆とヨーグルトという、典型的な朝食のメニューが揃った。
あまりの手際の良さに「いつも朝からこんなに食べてるんですか?」と聞くと「朝しっかり食べないと一日が始まらないっていう母ちゃんの教え」で、昔から料理は仕込まれていたらしい。となると、いつどこでどのタイミングで変態性に目覚めたのか不思議でならない。生まれ持ったものなのか、それともきっかけになる何かがあったのか……。
綺麗な箸遣いで食事をする朝比奈先輩を盗み見ていたら、開け放っていた窓から、夏の香りがする風が雪崩れ込んできた。それに促されるように、ふたりの視線が外に向く。
「夏だねぇ」
「夏ですね」
「洗濯物が良く乾く良い天気だねぇ」
「そうですね」
「朝食の前に、シーツ洗濯機に入れとけば良かった」
「食べ終わってから洗っても、夕方までには充分乾きますよ」
「だよねぇ」
宣言通り、先輩は朝食の後すぐに洗濯に向かい、その間にわたしは後片付けを引き受けた。シーツを剥がすのにやけに時間がかかっているな、と思ったら、タオルケットや枕だけじゃなく、しまっていた毛布や掛け布団まで干していたらしい。換気のために家中の窓を開けていたら、ご近所さんたちがみんな布団を干しているのを見かけて、じゃあうちも、ってことらしいけれど。なんて家庭的なんだ。
ふたりで庭にシーツを干して、庭に面した居間の掃き出し窓に座ってそれを眺める。夏の爽やかな風にシーツが靡いて、気持ちが良い。
そんな絵に描いたような典型的な休日を過ごしながら、わたしはこんなことを考えていた。