そろそろ恋する準備を(短編集)
授業が終わっても、解放されることなんてなかった。しののめくんを家までお送りするという使命がきっちり残っている。
そんな重労働は山ノ内に任せようと思ったのに、やつはいつの間にか保健室から戻り、いつの間にか帰宅していた。
なんてやつだ……。しののめくんの怪我は、山ノ内も関わっているというのに。そもそも山ノ内がわたしのドラゴンプリンメロンパンを盗らなければ、こんなことにはなっていなかったというのに……。明日山ノ内の上靴にゴキブリのおもちゃくらい入れてもバチは当たらないだろう。
「帰るぞ」
「はい、仰せの通りに……」
帰りのホームルームの後、足を引き摺りながらわたしの席までやって来たしののめくんから彼の鞄を受け取り、手下のようにぺこぺこと頭を下げる。
クラスメイトたちが何事かとこちらを見ている中、わたしはしののめくんの身体を支えながら、教室を後にした。
帰り道は地獄だった。
しののめくんの家は、区内ではあるけれど長い長い坂道を上り切ったところにあった。
わたしは愛用のママチャリの荷台にしののめくんを乗せ、自転車を引く。二人乗りは違法だからとこういう形になったけれど、これが予想以上の重労働。
わたしよりずっと身体の大きい男性を荷台に乗せ、バランスを崩さないよう慎重に自転車を引いているから、疲労もストレスも半端ない。汗が頬を伝い、酸欠でくらくらする。でもここで倒れてしまったら、しののめくんがアスファルトに投げ出されてしまう。それだけは阻止しなければ、という使命感だけで歩を進めた。
ようやくしののめくんの自宅マンション前に着くと、一気に力が抜けて、へなへなとその場に座り込んでしまった。もう一生分の体力を使ったような気分だった。