偽りの先生、幾千の涙


「まあそうなんですね。
それでしたら、音楽の先生にお願いしたらよろしいじゃないですか。
私なんかよりもずっとお上手ですよ。」


これまたニコニコと嘘を吐く榎本果穂を、俺は軽く睨み付ける。


「確かにここに先生もいらっしゃるけど、俺なんかの演奏のために付き合わせるのは悪いから。
だから少し付き合ってくれない?」


「そうですね…少しだけなら。」


榎本果穂は諦めたようにこちらに近付いてくる。


勿論、目では色々と語っている。


駄々をこねた日の借りはこれでチャラだと。


失礼しますと榎本果穂が入ってくると、音楽教師はあからさまに嫌な顔をする。


「榎本さん、こちらでピアノなんて弾いていて、大丈夫?
忙しいんじゃないの?」


「いいえ。
ちょうど一段落したところなので。
私はピアノに触れるのが久しぶりなので、ご指導よろしくお願いしますね。」


榎本果穂が無言の圧力に、音楽教師は黙りこむと同時にもう一度俺を見つめてくる。


意図なんか汲んでやらずに、俺はチェロに触れる。


そこそこ良いやつを買ったようだ。


学校に置いておくなんて勿体ない。


「伊藤先生、曲は何になさいますか?
私、弾ける曲は多くないんですよ。」


「…そうだな。」


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