偽りの先生、幾千の涙


「そこは逆に、俺も教えたくないな。」


「そうですか。
それは残念です。
…ごめんなさい、私、時計は見ていなかったんですけれど、もうそろそと時間ですね。」


榎本果穂は腕時計を俺に見せる。


この子、時計とかしてたかな?


「本当だ。
俺も時計見るの忘れてたよ。
言ってくれてありがとう。
じゃあまた休み明けに。」


「はい。
今日はありがとうございました。
失礼いたします。」


榎本果穂はソファから離れると、また綺麗なお辞儀をして部屋を出る。


榎本果穂の足音が遠のくのをドアに耳を当てて確認すると、部屋に鍵を掛ける。


俺は座っている方のソファの裏に隠したタブレット端末に、今日得た情報を書き加える。


国木田花音に聞いた事、榎本果穂との面談の詳細…それらを書き終えると、俺は一度背伸びをする。


そして考える。


作戦変更、休み明けの面談の時も他の子から榎本果穂の情報が仕入れるように誘導しないと。


あと、何故かは知らないけど疑われているって…やっぱり父さんに報告した方がいいな。


今後の対応とか一緒に考えてくれるかもしれないし、俺だって出来る事ならとっとと任務を終えて教師を止めたい。


榎本果穂も言っていたが、俺にとってここの学校は面倒だ。


男に飢えた女子高生が鬱陶しいたらありゃしない。


俺は時計を元の位置に戻して、荷物を持って職員室に戻る。


やっと休みだと言って喜ぶ他の教員達が飲みに行こう誘ってきたが、俺は断ってさっさと帰った。


大事な情報源は、早く安全な家に持って帰らないといけないから。



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