あの日、あの桜の下で
彼に嫌われたり、『別れよう』と言われたわけではないのに、家に帰ると堰を切ったように、涙が溢れて止まらなかった。
――私のことが好きで大切なら、ずっと私の側にいてほしい……。
そんな我が儘で浅ましい思いが、心の中に充満してくる。
あんなに近くにいて、一つになった彼が、遠く離れて行ってしまうなんて……。
その現実がなかなか受け入れられずに、このころの私はいつも一人になると泣いていた。
『日本の大学にも』と彼は言っていたが、本当に望んでいるのはアメリカの大学に行くことに違いない。そうでなければ、その選択肢が浮かんでくるはずがない。
『世界中を舞台にして…』そう言っていた彼の夢を思い出した。彼の夢のためには、やはりアメリカの大学に行く方が近道なんだと思う……。
私は、何にも増して彼のことが大切だった。彼のためなら、この私のすべてを捧げてもいいと思っていた。
たとえそれが、〝彼と一緒にいられる〟というかけがえのないことであっても、私の彼を恋い慕う心であっても、彼のためならすべてを犠牲にしてもいいと思った。