あの日、あの桜の下で

 桜の下の彼



そこは、地元の〝名門〟と言われる高校だった。その高校の合格発表があって、目の前に開けている希望と新鮮な気持ちで満ち溢れていた春休み。


私はそんな浮き立つような心を抱えて、家の近くにある川土手の桜並木の小径に行ってみた。

合格できたら「行こう」と、心に決めていた場所。

本当に一生懸命勉強してきたから、合格できたことが心から嬉しかった。
この喜びを、この特別な場所で一人で噛み締めたかった。そして、この桜たちとこの喜びを分かち合いたいと思っていた。

桜並木の真ん中は、暖かく穏やかな空間。そこで深く息を吸い込んでみる……。

これから、新しい世界が開けて、新しい自分に出会うことができる――。
そんな想いを抱えながら、咲き誇るこの桜並木の枝を見上げていたその時のことだった。


突然の強い衝撃。
その直後、舞い散る桜の花びらのように、私の体がふわりと宙に飛び、真っ暗な宇宙の中を漂っているような感覚になった。

それから、どのくらいの時間が経ったのだろう……。


「…だ、大丈夫?…ごめん、俺。桜に見とれてて、前をよく見てなかったから……!」


焦っている声がして目を開けると、私の目の前には、桜が映える青い空と、心配して覗き込んでくる同年代の男の子の顔。


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