戸惑う暇もないくらい
決意と素直な気持ち
仕事が終わるとすぐにスマートフォンでニュースを確認した。休憩中は仕事に支障が出るのを恐れて見ることができなかった。

『今人気急上昇中の若手女優、モデルと熱愛発覚か!?』

そんな見出しが飛び込んでくる。
いざニュースを目にすると胸のざわつきがひどくなった。

結局記事を最後まで見ることができず、スマートフォンを閉じて電車の外の景色に目線を移した。
窓に写った自分の顔がひどく悲愴な表情になっているのを見てそこからも目を逸らす。

今すぐ那智に会いたい。
早く、会って声が聞きたい。

逸る気持ちを抑えながら家へ向かう。
まだこんな時間には帰っていないだろうと思いながらもいつもよりも早足で歩いていた。

家の前について窓を見上げるが当然電気はついていない。
ため息をついて部屋へ向かった。

「ただいま」

誰もいない空間に虚しく響く声。
一人で暮らしていたときは当たり前の光景だった。
そもそも帰ったからといって「ただいま」なんて言わなかった。
誰もいないのが分かっているのにそんな習慣があるわけない。

靴を脱いで廊下を歩く。
いつも廊下を飛び出して大きい身体で苦しいくらい抱き締められる。
それがどれほど嬉しいことだったのか、今なら分かる。
帰ってきて迎えてくれる人がいる。

そこが自分の居場所だと教えてくれるような。

同棲する前はどうだった?
那智と付き合う前は?

遡っても、思い出せない。
それだけ那智のいる日常が当たり前で那智と一緒にいることがもう生活の一部だ。

今さらそれを変えることなんてできない。
那智のいない生活なんて想像つかない。

お願いだから早く帰ってきて。

ソファに座り込んでただ祈るように目を瞑った。

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