戸惑う暇もないくらい
「こちらどうぞ」

空いてる椅子へ促し、自分も隣に腰かける。

「ありがとうございます。それで、春夏の件なんですが」
「はい、この07シリーズがメインなんですよね」
「そうです。ただ、やはり本国でも人気が高いと踏んでいて、在庫がどれだけ確保できるか、という状況です」

少し眉を下げて成川さんは困った顔になった。

「前も仰ってましたよね。それで、あえて08シリーズメインでいこうかと思ってるんです」
「08シリーズですか」
「はい、これ、形としては定番のパターンですし、固定客もあります。今回は今までにないデザインでかなり印象も変わりますし、新規客を引っ張るチャンスです。あと、ルームウェアも同じくデザインで作ってましたよね」
「はい、今回はこのシリーズだけですね」
「そちらも少し入れて、目を引けるような展開にしたいなって」
「ありがとうございます!必ずご希望の在庫が確保できるよう全力を尽くします」

成川さんはやる気に満ちた顔で笑って言った。
仕事に真面目で話していて気持ちが良い。
つられて笑うように口を開いた。

「実は、私自身、07より08のデザインが好きなんですよね。自分でもルームウェアを一回買おうかと悩んだくらいで」
「そうなんですか…意外だ」

08のデザインはどちらかというとシンプルラインだったが、今回はガーリーテイストになっていて、ルームウェアも袖や裾がフリルになっていた。

そんな可愛いデザインが好きだと言ってしまい、成川さんにうっかり本音という感じで意外だと言われたのに気恥ずかしくなる。

「…そうですよね、30前にした女には可愛すぎますよね」
「いえっそういう意味ではなくて…広瀬さん、美人でお綺麗なんでてっきりシルクのネグリジェとか着てそう…って何言ってんだ俺!すみません、セクハラですね」

照れたように慌ててジェスチャー混じりに謝る成川さんがおかしくてつい笑ってしまう。

「ふふ、いえ、大丈夫です」
「すみません、年下の女の子に何言ってんだろほんとに」
「あれ、成川さんておいくつなんですか?」
「今年で33です」
「え、見えないです」

年下か、少なくとも同い年くらいかと思っていたのに。

「はは、よく言われます。そういえば、さっきの…一回悩んだって言ってましたけど、どうして止めたんですか?」
「それは…」

そんな可愛い服を那智の前で見せられないと思ったからだ。
なんて言える訳もなく。

「ほんとに、私にはちょっと可愛すぎるかなって思ったんです」
「そんなことないと思います。広瀬さんは可愛いです…て、だめだ、なんか今日何言ってもセクハラになりそうだ」

赤面する成川さんがなんとなく那智と似てるところがあるなと思ってしまい、可愛く思える。

「すみません、それじゃあまたよろしくお願いいたします」
「はい、こちらこそよろしくお願いいたします。納品楽しみにしてます」
「頑張ります。今週中には在庫確定出しますので。それでは失礼します」

きっちりと頭を下げて成川さんは売り場を後にした。

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